昔、女子大生A子さんは、試験直前になるとイギリス&アメリカ文学の作家とタイトルを徹夜で丸暗記しておりました。
若い体力と脳の短期記憶力のみでその場をしのぎ、奇跡的に卒業した彼女は10数年がたってアメリカで生活することが決まったとき、嫌な予感がしました。
アメリカは意外と学歴社会なので、大学で何を専攻していたかはよく話題にのぼります。英米文学の学士号を持っていると言おうものものなら、当たり前ですがまわりの優しい皆さんは広がりのある会話を目指して、いろいろな作家の名前や作品名をあげて下さいます。しかしみなさんの期待と裏腹に、A子さんはか細い声でこう答えるしかありません。「タイトルも著者も知ってます、でもどういう話かはきかないで〜」
‥‥これは私の実話です。格好悪すぎるので、今ごろになってようやく作品にじっくり目を通す気になりました。というより、現在のカレッジ課題に使うため、どうしても本を、しかもちゃんとしたものを読まなくてはならなくなったのです。
そこで私が選んだのは、19世紀アメリカ文学から、ヘンリー・デイビッド・ソローの「ウォールデン」。ホントに、名前とタイトルだけは知っていました。でも内容はさっぱり想像がつきません。ただ、副題に「森の生活」と書いていたので読む気になった、それだけです。
これが、読んでみると面白い!ソロー自身が人里離れた森の中に粗末な小屋を作り、魚を釣って豆を育て、ひたすら自然とともに過ごした2年間の記録。半分哲学みたいな話もあり、その視点がまた面白い。まちがいなく私の心の友になる1冊。
いやースバラシイ、2年も自給自足で一人きりで、すごいわー、などと熱く感動していると、ダンナがぽつりとこう言いました。
「ソローってさ、毎日お母さんがご飯をもって小屋を訪れてたんだってよ」
‥‥うるさい!そんなウソにだまされるもんか!
翌日、クラスメイトの男の子に「うちのダンナってばさ、こんなこと言って私をだまそうとするんだよね」と軽くふってみました。すると彼、
「あー、彼の小屋、実は街から歩いてすぐの場所に建ってたんだよ」
‥‥もういいです。当地アメリカでは有名な事実らしい‥‥ソロー、あんたって人は!